怪談、体験談

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体験談 [大江戸線の話]

社会人の話
大江戸線でおばさんと喧嘩した話

 


通勤で大江戸線を利用していた。
大江戸線は車両の幅が狭い。

 

椅子に座って脚を伸ばせば、前の人の脚に当たってしまうこともしばしばだ。

 

利用者は少ない路線なのだが、朝の車内はそこそこ混雑してしまう。

その日僕は座席に座れず、つり革に捕まり新宿西口駅を目指していた。

 

鞄を手にぶら下げ、ケータイ片手に憂鬱な時間を過ごしていた。

 

東新宿駅を過ぎたあたりで、大江戸線は急カーブをする。

 

うっかりしていた。
僕の体は遠心力引っ張られ、
前に座っているオバサンの膝に、鞄の角でコツーンとぶつかってしまった。

 

「あ、すみません!」

 

慌てて謝罪した。
混んだ車両の中ではよくあることだ。

 

謝りながらオバサンをチラ見した。

 

物凄く睨まれていた。

 

え、そんな怒る?痛かったのかな?

 

「すみません」


もう一度謝った。

 

まだ睨んでいる。


そしてブツブツ何か言っている。

 

 

「はぁー痛い。なんなのよ、痛いわぁ。ほんとに。痛いわぁ」

 

 

え、そんなに痛いか?
僕の鞄はナイロンだしあんまり物もいれてないから超軽い。そんなに後に続く痛さなはずはない。


オバサンは、鞄がぶつかったであろう膝をさすりながら、なお僕を睨み付けている。


なんだか怖い。絶対変な人だ。関わらない方が良いだろう。


電車が新宿西口駅に到着したので、僕は逃げるように下車してエスカレーターに向かった。

 


ゲシッ   ゲシッ

 


ふと靴の踵に衝撃を感じた。

朝の混雑時に靴を蹴られるなんて、よくあることだ。
特に気にせず歩き続けた。

 

 

ゲシッ   ゲシッ

 

またか、まあ人多いからな。仕方ないか。

よくあるよくある。

 


ゲシッ ゲシ

 


え、なんで?おかしいぞ。
もう僕はエスカレーターに乗っている。


チラっと後ろを見ると、さっきのオバサンが真後ろにいた。

 


どうやら僕に仕返ししてるらしい。これは少し恐怖だ。

 

後ろを振り返った僕と、おばさんの目が合った。

 


、、、ゲシッ

 


おばさんは、なんと僕と目を合わせたまま、踵を蹴ってきた。

 


さすがにムカついた。

ムカつく相手には、自分以上にムカつく思いをさせてやるのが僕の流儀だ。

 


僕は
「はぁー、痛い、痛い。」

と言いながら、


蹴られた踵を嫌味ったらしくさすってみた。
オバサンの目を睨みながら。

 


どうだ。自分の真似をされるのはムカつくだろう。
人を馬鹿にすることにかけては自信があるのだ。

 

 

しかし次の瞬間、

 


「踵当たったくらいで痛いわけないでしょうがぁぁぁぁあ!!!」


とオバサンは大声で叫んだ。

 

人口密度の高い朝のエスカレーターで起きた突然の雄叫びに、
周囲が一気に注目したのが分かった。

 

急に叫ばれてビックリした僕は
「ヒィイイイ!」とリアルに悲鳴を上げながら、
エスカレーターの右側を駈け上がって逃げた。

 


今思い返しても恐ろしい叫び声だった。

 


この光景を知り合いとかに見られていなくて本当に良かったと、心から思う。

とても情けなく恥ずかしい怯えようだったはずだ。