怪談、体験談

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体験談 [所長の引っ越し] ガソリンスタンド

ガソリンスタンドの話1 

【所長の引っ越し】

 
高校を卒業し、何もやることがなかった僕は実家すぐ近くのガソリンスタンド

「株式会社○○石油 第一営業所」

にアルバイト入社した。

 

そこはテキトーな人々集まり、

ビミョーに仕事し、豪快に遊ぶ、

とても愉快な場所だった。

 


その店はいつも、3人で回していた。

・所長

30歳元ヤン。お調子者。


・ショウちゃん

19歳。中学時代の同級生、お調子者。


・僕(しゅん)

19歳。時給650円底辺フリーター。

 

上記の3人がこのスタンドのメインキャストだ。


10時の開店作業を終えたら、もうその日の仕事は半分終わったようなものだった。

 

事務所の中で3人とも行儀悪くソファーに腰掛け、煙草を吸ってジュースじゃんけんをして、

昨日観たAVの物真似を披露し終わった頃には

午前の業務が終わっている。

 

合間で来るお客さんにガソリン入れたり、オイルを突っ込んだりするのが主な仕事であった。そんな日々を過ごしていた。

 

 

所長はいつも唐突だった。

僕とショウちゃんが何本めかのシケモクに火をつけた時、

店のPCでフィギュアの転売取引(副業らしい)をしていた所長が、思い出したように口を開いた。


所長「ショウちゃん、冷蔵庫欲しい?」

ショウちゃん「え?欲しいす」

所長「しゅん、ベッドいる?」 

僕「え?くれるんすか?」

所長「うん。引っ越しするから。彼女と同棲する。」

僕「急っすね、もう部屋とか決まってんすか?」

所長「まだだけど、先に要らない物は部屋から出しておきたい」 

ショウちゃん「じゃあ仕事終わりに所長ん家に貰い行きますね」

所長「うーん。いいよ、今持ってくるわ。」

 

僕「え、今?」


決断した所長の動きは早く、

引っ越しの話からものの1分足らずで

店のトラックで勝手に出ていってしまった。

 


ショウちゃん「所長ぜってーサボりたいだけだろ」

僕「まあ暇だったからな。」


愚痴を溢しながら二人で店を回す。(といっても暇なのでたいして仕事は無い)

 

なんやかんやガキ2人にとって、

家具が貰えるのはありがたいことであり

ワクワクしながら所長の帰還を待っていた。

いつになく仕事にも精が出た。

 

全身を使ったオーバーアクションで

お客様を給油機までスタイリッシュに誘導し、

いつも無視しているサイドミラーまで

拭き拭きし、

挙げ句の果てに幸せのお裾分けと称し、

 

ご来店の皆様に10円分ずつ多くガソリンを入れる「ゲリラキャンペーン」を勝手に開催するなど、

なんとも分かりやすい浮かれっぷりであった。


そうこうしているうちに二時間程経ち、
トラックの荷台にブツを乗せた所長がドヤ顔で帰ってきた。

 

お疲れーす!

ジョージア微糖で所長をお出迎えした。


所長「はい、しゅんのベッド!」 

僕「あざーす!」

所長「はい、ショウちゃんの冷蔵庫!」

ショウちゃん「ありあーす!」

 

所長「そして冷蔵庫には、こちらも付いてきます」

ドサッ!


事務所のテーブルに置かれる不可解な紙袋。  

 

ショウちゃん「ん?なんすかこれ。」

ガサガサ、、、「うわあ。」

 

紙袋の中から現れたのは、昭和臭漂うコアな熟女盗撮系アダルトビデオ(未開封4作品。VHS)だった。

 

僕「いらな!笑」

ショウちゃん「いや所長、これは持ち帰れないです。」

 

所長「あ?冷蔵庫とセットっつってんだろ。」

 

無駄に顔を作り、凄みを見せつける所長。
多分ふざけているのだろうが普通に怖い。

 

このような無駄にスタートする変なノリは、この店では日常の一コマである。

楽しく終わることもあれば、誰かが実害を受けることもしばしばだった。

 

本格的にイジリが始まる前に

ショウちゃんが切実な訴えを始めた。

 

ショウちゃん「今日、木曜日じゃないですか、本当に厳しいんですよ」

 

そう。今日は木曜日である。

毎週木曜日はショウちゃんの家に

彼女のさっちゃんが泊まりに来る日なのである。

 

「毎週木曜はさっちゃんの日」 

 

これはこの店では周知の事実であり、

遊びや飲み会は木曜日を外してセッティングするのがこの店では暗黙のルールとなっているほどだ。

 

さっちゃんは怒ると怖い子なのだ。

1日セッター二箱のヘビースモーカーであることからも、その気合いの入った屈強さが伺える。

 

完全に彼女の尻に敷かれている座布団系男子のショウちゃんが、こんなコテコテのAVなぞ持って帰れるはずはないのだ。

もれなく根性焼きコースである。


さっちゃんにこんなAVを隠し持っていることが知れたら、ショウちゃんは無事では済まない。
翌日ボロボロのぺったんこになった座布団男が出勤してくる光景が目に浮かぶ。

 

同じスタンドで働く仲間が、

大事な親友が、

そんな仕打ちを受けるなんて、

僕はとてもワクワクした。


ショウちゃんの必死の訴えを聞いてもなお、

所長は真顔で凄みを見せつつジョージアをズビズビ啜っている。


ショウちゃんは僕の方を振り返り言った。
「しゅん、お前持って帰ってくれよ。ネギ味噌の逸品奢るからさ」

注)ネギ味噌の逸品:当時僕らが世界一美味しいと思っていたカップラーメン


僕「あのさ、、人から貰ったものを、そんな風に迷惑がるのって、良くないよ。」

 

ショウちゃん「いや、マジでそういうのいいから!ねえ所長、しゅんに渡しても良いですよね?!」

 

所長(真顔)「ズビズビ、ズズー、、、」

無言でジョージアを飲み続ける。

 

ショウちゃん「なんなんだよ。。」

 

ショウちゃんが不貞腐れて煙草に火を着けた時、

 

ブイーン


と、お客様が来店した。


僕「ショウちゃんは吸ってていい、俺やってくるから」


なんだかショウちゃんが哀れに見えたこともあり、僕は一人でお客様対応のため事務所を出た。

 

お客様の車を誘導して窓を拭いてると、

ふと
ミラー越しに事務所からコソコソと出てくるショウちゃんが見えた。

 

なにやら動きが怪しい。

そのままミラー越しに様子を伺う。

 

 

しょうちゃんは僕のスクーターの椅子下の収納スペースにAVを詰め込んでいた。


、、、なんて奴だ。

 

僕が乗っていたDioというスクーターには、椅子下にそこそこな収納スペースがある。

本来ヘルメットを仕舞ったりする場所だが、
僕はヘルメットはいつもハンドルに引っ掛けるので、収納スペースなんか滅多に開けないのだ。
しょうちゃんもそれを知っている。

 

忘れた頃にあのコテコテのAVの束に遭遇したらと考えると恐ろしい。


なんて姑息な嫌がらせを仕掛けようとしていやがるんだ。
僕の中で静かに怒りを募らせた。

 


お客様をお見送りして事務所に戻ると、

AVの悩みから解放されて朗らな顔になったしょうちゃんが


「しゅんありがとな!次は俺行くから!」

 

と、なんとも白々しいセリフを吐いてきた。

 

僕は何も気付いてないふりをして

「おう、よろしく!」と煙草に火をつける。

 

 

ほどなくして次のお客様がご来店。

 

しょうちゃん「らーっしゃいませーい!」

 

意気揚々と事務所を飛び出すしょうちゃん。
悩みから解放された彼の足取りは軽い。

もう冷蔵庫を彼女に自慢することしか考えていないのだろう。愚かな奴め。

 


僕「所長、あいつ俺のスクーターにAV隠してましたよね?」 

 

所長「あ、気付いてたんだ」ニヤニヤ

 

所長は半笑いを浮かべながら、しょうちゃんのセルシオのキーを僕に渡そうとする。


所長の目は
セルシオダッシュボードにAVを仕込んでやれ!」
と、訴えているようだった。

 

しかし僕は鍵を受け取らない。

 

僕「冷蔵庫に仕込みます」

 

所長「おおおー」


僕は外で給油対応しているしょうちゃんにバレないよう、
コソコソと事務所を出て、

第二匍匐前進を駆使しながらスクーターに近付きAVを無事回収して事務所に戻る。 

 

しょうちゃんが今回貰った冷蔵庫は

独り暮らし用の1つ扉のタイプで、外扉を開けると上部に内蓋があり、それを開くと小さい冷凍室となっているタイプのものである。
 ビジネスホテル等によく設置されている

ごく一般的な冷凍室付冷蔵庫だ。 

 

彼は所長から冷蔵庫を受け取った時


「アイスも入れられるじゃん!部屋でいつでもアイス食える!これはすごい!」

と、冷凍室をとても気に入っていた。

 

僕はAVの隠し場所はここしかないと決めていた。

お気に入りの冷凍室を、AV室にしてやるのだ。

 

小さな冷凍室なので、AVが全て隠せるか心配だったが、そこは天板を力づくで歪ませることで何とか全4本の収納に成功した。  


よし、ちゃんと内蓋も閉まる。
普通に冷蔵庫を開いただけでは、AVが入ってることにはまず気付かないだろう。

冷凍室を使って初めてAVが姿を現す時限爆弾式のビックリ箱の完成である。

 


きっとしょうちゃんは今夜、

冷蔵庫を家に持ち帰り、嬉々と自室の電源にセッティングするだろう。

 

その後さっちゃんを高崎駅まで迎えに行き、帰り道にミニストップでアイスを買うであろう。


おそらく冷凍庫を自慢するために多めに買うはずだ。バカだから。

 

いつものようにさっちゃんを部屋に招くしょうちゃん。
さっちゃんはアイスを多く買ったことに少し違和感を感じているかもしれない。

 

しょうちゃんは
この部屋いつもと違うだろ?

とか言いながら冷蔵庫を御披露目するだろう。

 

冷凍室も付いてることを自慢し、多く買ったアイスを仕舞おうとして内蓋を開ける。


そして溢れ出るキンキンに冷えたカチカチのコテコテのAV。


凍り付くしょうちゃん。
煮えくりかえるさっちゃん。

 


、、、完璧だ。
完璧なシナリオだ。


長い付き合いなので行動パターンも手に取るように分かる。

9割方この流れで間違いない。自信しかない。

 


所長と僕は、
これから起きるしょうちゃんの災難を想像して、ニヤニヤ笑った。

 

事務所の外で、何も知らずにいきいきと働いている彼の後ろ姿が、また笑いを誘う。バカな奴め。


お客様をお見送りしたしょうちゃんが、事務所に戻ってくるのが見えたので、
急いでニヤケ顔を戻す。 

所長は既に真顔でスタンバイしながらエロ本に目を通している。さすがだ。


僕「しょうありがと、次は俺行くわ」

しょうちゃん「おう(^-^)」


駄目だ、コイツと顔を合わせていたら笑ってしまう。


バレたらせっかくのシナリオが台無しだ。気を付けなければ。 

 

平常心を装うために、imodeを駆使して音量MAXでエロ動画を再生する。

 

しょうちゃん「しゅん今観るなやー(^-^)」

 

僕「うるせー集中してんだから話かけんな」

 

所長「・・・」エロ本ペラ、ペラ


よし問題無い。いつも通りだ。
早く閉店になれ。ショータイムは近いぞ。

 


、、、しかし、僕が思っていたよりももっと早く、ショータイムは訪れることになる。

とても気まずい状況で。。。

 


事務所で寛いでいる時に来るお客様は、正直だるい。

 

ブイーン

 

見たことあるキューブが来店した。
しょうのお母さんの車だ。

 

僕の番だったので、いらっしゃいませーと
一応声を出して事務所を出ようとしたら、

 

しょう「あ、しゅん大丈夫!かあちゃんだから!」 

と呼び止められた。

 

僕「いや母ちゃんガソリン入れるっしょ?」

 

しょう「違う、冷蔵庫持って帰るために俺が呼んだ」

 

僕「は?!」

所長「・・え?」

 

僕「、、この冷蔵庫ならセルシオに乗るだろ?」

 

しょう「いや、セルシオ汚したくないから」

 


なんか嫌な予感がする。

 

しょうちゃんのお母さんは、車を降りて事務所に挨拶に来た。


お母さん「所長さん~いつもお世話になってます~。こんな良い物貰ってしまって、ありがとうございますう。あ、しゅん君元気~?」

 

僕「あ、ども」
所長「いえいえ、別に大したことじゃないですからハハハ」

 

しょう「よし!母ちゃん、積み込も!」


AVの入った箱(冷蔵庫)を親子で運んでいる光景は、なんとなく危なっかしく思えて、見てるこちらは気が気でない。  

 

僕と所長は、事務所の中から固唾を飲んで二人の様子を見守った。

 

、、頼む。どうか無事に車に積み終わってくれ。お母さんの前でAV暴発だけは勘弁してくれ。

所長なんか自分の冷蔵庫だとお母さんからしっかり認識されているのだから、余計に気が気じゃないはずだ。

 

親子がキューブの荷台に冷蔵庫を載せる。 

 

パカッ


何かの拍子で、冷蔵庫の外扉が開いた。


万事休すか?!

僕と所長はガタッと立ち上がる。

 


、、、しかし普通に扉を閉めて、作業続行し始めた。


どうやらパンパンにAVを詰め込んだため、内蓋が開かれない限り、AVが飛び出すことは無さそうだ。

 

良かった。本当に良かった。

所長と僕は、もうドキドキが止まらない。
早く母ちゃん帰ってくれ。

 


事務所内の二人の心配をよそに、
外の親子は無事に、キューブに冷蔵庫を乗せ終わったようだ。


ここまで来ればもう安心。
大丈夫、後はシナリオ通りだ。

 

しかし、僕と所長が思っていたより
しょうちゃんはバカで、受かれていたのだ。

 


しょう「かあちゃん!いいだろ!これ!」バンバン!

 

僕(あー、あんまり叩くな)

 

しょう「この冷蔵庫な!」パカッ

 

僕(あー、、扉開かなくても良いだろ別に、)

 

しょう「冷凍室も付いてるんだぜぇ!」内蓋パカー

僕(それはダメー!)

 


バサバサドサドサ!!!!!


待ってましたと言わんばかりに、冷凍室からAVが噴出した。
ちょうどお母さんを取り囲むかのように、足元に散乱するAV。

 


お母さん「キャ!え?!なにれ、えー?!でもこれ、所長さんの、、え、えー?!」


なんてことだ。最悪のタイミングでAVが登場してしまった。

 

お母さんはびっくりして叫んでる。

しょうちゃんは固まったまま口パクパクしている。

 

そりゃそうだよな、スクーターの中にあるはずのAVが、なぜか自分の冷蔵庫から出てきたんだもんな、お母さんの目の前で。

ビックリだよな。

 

 

僕「所長、やば、これどうしましょ、、」

僕は所長の方を振り返る。

 


あれ?所長がいない。

 

所長は物凄い勢いで事務所を飛び出し、お母さんの元に駆け寄り、

 

所長「こ、これぇ!!!ぜ、全部しゅんちゃんのですうぅぅぅ!!!!」

 


所長はなんと全ての罪を俺に浴びせようとしていた。

さっきまで事務所の中で一緒にビクビクしていた人間が、こんなにもフットワーク軽く裏切ってくるとは。

しかし所長、その言い訳は通じるのですか?

 

 

しょうちゃん「あ、、あの、これは、弟の、お土産に、ちょうど良いな!」

テンパりながら、母親の前で平静を装っているつもりなのかあり得ないことを口走るしょうちゃん。 お前の弟はまだ10歳だ。

 

お母さん「何バカなこと言ってんのよ!ヤダァもう!」

 

 

お母さんは冷蔵庫だけを持ち帰り、そそくさと去っていった。

 

二人とも肩を落として事務所に戻って来た。 

 

しょうちゃん「しゅん、これ、持って帰ってくれるよな」

ドサッ

 

AVがテーブルの上に戻ってきた。   

 

僕「うん。ごめん。分かった。」

 

この日はもう、さすがにしょうちゃんをいじり続ける気分にはならなかった。